《少しだけ開いた扉》
2024
masking tape, wall, light
2000 x 1040 mm
installation 《閉じられた窓と少しだけ開いた扉、もしくはそとへの夢を見るための部屋》
スキングテープによる「ドア」の作品は、空間に仮設的な視覚像を立ち上げることで、知覚と現実の関係性を問い直すインスタレーションです。実際には存在しない扉や窓を、色とりどりのマスキングテープで壁や床に描き出すことにより、鑑賞者に「あるはずのないもの」を見る体験を促します。その描かれたイメージは、遠目には立体的かつリアルに見える一方で、近づくにつれて物質的な平面性や仮設性が露わになり、知覚のズレや現実のほころびが浮かび上がってきます。
マスキングテープという工業素材が持つ「一時的」「剥がせる」「痕跡を残す」といった性質を活かしながら、建築空間の中に虚構の境界(ドアや窓)を差し挟むことで、鑑賞者の身体的な動きや視点の変化に応じて空間の意味が揺れ動く構造をつくり出します。これにより、作品は単なる視覚的イリュージョンではなく、鑑賞者自身の「観測」によって成立する「知覚空間」への入口となるのです。
このシリーズは、空間をただ受動的に見るのではなく、私たちの知覚がどのように世界を構築しうるのかという根源的な問いを投げかけています。作品は、見る/見ない、ある/ないのあいだにある曖昧な領域を立ち上げ、鑑賞者に現実とは何かを再考させる装置として機能しています。